ダンサーの方々へ

社交ダンスとともに生きるということ

ダンスウェーブ代表 加地 卓

「社交ダンス」。その言葉に、どんなイメージを持たれるでしょうか。華やかなドレスをまとい、フロアを滑るように舞う姿。テレビ番組や映画で観たことのある、美しく気品ある世界。あるいは、「年配の人の趣味」「昔流行ったもの」といった印象を持つ方もいるかもしれません。

僕は、人生の多くの時間を、社交ダンスとともに過ごしてきました。踊ることの喜び、人と向き合うことの難しさ、そして、音楽と心をひとつにする感動。社交ダンスは単なるスポーツや趣味ではなく、私にとっては“生きる力”そのものであり、人と人をつなぐ「文化」そのものだと感じています。

ところが、今、この文化が静かに、しかし確実に衰退しつつある現実があります。日本全国で、社交ダンスの愛好者人口は年々減少し続け、教室の閉鎖、競技会の縮小、若い世代の離脱といった声を、私はこの10年で数えきれないほど耳にしてきました。本来、社交ダンスには、健康づくり、認知症予防、コミュニケーション力の育成、さらには生きがいや地域活性化といった、多くの社会的価値が詰まっているのです。その価値が正しく伝わらないまま、文化が静かに消えていくことに、私は強い危機感を持っています。

僕がこの挨拶文を通してお伝えしたいのは、ただ「社交ダンスは素晴らしい」と主張することではありません。なぜ今こそ、社交ダンスを必要としている人がたくさんいるのか。なぜ、この文化が未来に受け継がれるべきものなのか。そして、「ダンスウェーブ」というラジオ番組が、どんな想いと背景の中から生まれ、何を目指してきたのか。ここには、20年以上現場で見てきた“現実”と、全国のダンス関係者・出演者・視聴者・ボランティアの方々との“つながり”があります。

このめつぇーじが、少しでも多くの方に届き、「自分にも何かできるかもしれない」と思っていただけたら、これ以上嬉しいことはありません。社交ダンスは、誰かが終わらせてはいけないものだと、私は信じています。

社交ダンス愛好家の現状と課題

少し勇気のいる話かもしれませんが、ここでは率直に、現場で感じてきた“課題”についてお話させていただきます。

まず最初に申し上げたいのは、「社交ダンス愛好家の人口は、確実に減っている」ということです。これは僕自身がダンス教室の現場や、競技会、イベントなどで日々感じていることでもありますし、
実際に業界団体が発表している各種統計や、地域でのサークル活動の存続状況からも明らかです。

かつて、社交ダンスは“習いごとの王道”でした。近所のダンススタジオ、公民館やカルチャーセンターではいつもにぎやかなダンスクラスが開催され、週末にはダンスホールで華やかに踊る方々の姿が多く見られたものです。

ところが現在、そうした風景は急激に減りつつあります。ひとつには、高齢化とともに“卒業”していく方がいても、新たな若年層の流入がないという人口構造的な問題。もうひとつには、「社交ダンス=年配の人の趣味」といった固定観念が根強く、若い人たちが入りづらい空気があるという文化的な要因があると感じています。さらに近年は、SNSや短尺動画の文化が浸透したことで、「簡単に真似できて映えるダンス」が求められる傾向が強くなっています。その中で、社交ダンスのように“ペアで呼吸を合わせる”“長く努力して身につける”といった、時間と労力を必要とするスタイルが選ばれづらくなっているのもまた事実です。

こうした時代の変化の中で、「ダンスを習いたい」と思っても、それが“社交ダンス”にたどり着かないのです。選択肢として存在していない。存在していても「なんだか古そう」と敬遠されてしまう。
これは非常に大きな危機だと僕は考えています。

一方で、現場では「続けたくても場所がない」「教室が閉鎖された」「イベントが減ってしまった」という声も多く耳にします。愛好者自身が「次のステップに進めない」「情熱を継続できる場がない」ことに悩んでいるのです。

つまり、入り口が狭まり、出口も曖昧になっている。

このような状況の中で、新たに入ってくる人は少なくなり、去っていく人は徐々に増えていく。その悪循環が、今まさに目の前で起きています。もちろん、現場の先生方やサークルの皆様、スタジオオーナーの方々が、この状況に立ち向かい、地道に普及活動を続けておられることを僕は知っています。心から敬意を表しますし、同じ志を持つ者として、強くつながっていきたいと願っています。

ただ、それでも、ひとつの団体や教室だけでできることには限界があります。「個々の努力だけでは追いつかない社会的な変化」が、今この業界を襲っているのです。だからこそ私は、この状況を変えるために、公共のメディアの力が必要だと感じました。ラジオという形を選んだのは、“映像がなくても想像できるダンスの魅力”を届けたかったからです。そして、現場のリアルな声を全国に発信することで、「社交ダンスは今も息づいている」ことを証明したかったのです。僕たちは今、単に人口が減っているという“数字の問題”もですが、文化の灯が静かに消えようとしているという“未来の問題”に直面しています。この危機に目をつぶるのか、それとも声を上げ、手を差し伸べていくのか。

僕は後者を選びます。たとえ微力でも、想いと行動があれば、未来は変えられると信じているからです。

なぜ今、社交ダンスが求められるのか

「なぜ、そこまでして社交ダンスを広めようとするのか?」時折、そう尋ねられることがあります。

そのたびに、僕はこう答えます。「社交ダンスは、人の人生を変える力、そして活力を与えてくれる力を持っているからです。」これは僕自身の体験談でもあると同時に僕の周りにいる方々が口を揃えて言われる言葉です。

その“力”とは何か?それは決して、一部の限られた愛好家にだけ通用するものではありません。むしろ、少子高齢化が進み、人と人のつながりが希薄になりつつある今の社会において、社交ダンスはあらゆる世代に恩恵をもたらす、“汎用性のある文化”、そして“身体の衰えを予防してくれるスポーツ”だと僕は確信しています。

“今”だからこそ、社交ダンス

僕たちの社会は、あまりに忙しく、あまりにデジタル化しすぎています。人の体温を感じる機会も、誰かの目を見て話す時間も、減ってきてはいないでしょうか。

そんな今だからこそ、心と体、そして人と人とをつなぐ“アナログ”な力が必要だと僕は感じています。社交ダンスは、まさにその象徴です。なので社交ダンスを“過去の文化”としてしまうのではなく、
“未来に必要な文化”として再定義し、届けていきたいと思っています。その想いが、「ダンスウェーブ」という活動の原動力となっています。

「ダンスウェーブ」誕生の背景と原点

――ラジオから始まった“声なき声”の広がり

「このままでは、社交ダンスが終わってしまうかもしれない。」

僕はあるとき、そんな強い危機感に襲われました。きっかけは、ある競技会場での出来事でした。その大会は、かつて数百人以上のエントリーを誇り、会場はいつも立ち見が出るほどの熱気に満ちていました。ところがその日、客席の一部は空席のままで、エントリー数も例年より少なく、どこか寂しさの漂う雰囲気がありました。
ダンス教室からは「生徒が集まらない」「若い人が来ない」という声。サークルからは「仲間が減って解散の危機だ」という嘆き。それらを聞くたびに、僕は胸の奥がざわつくような、言いようのない焦りを感じていました。

ラジオという選択

もともと僕はラジオが好きでした。大学に通う車の中ではずっとラジオを聴いていましたし、それが毎日の楽しみです。今では車は乗らなくなってしまいましたがもっぱらレンタカーではラジオ。これが今でも醍醐味となっています。映像がなくても、その声に耳を傾けているうちに、情景が浮かんでくる。何かをしながらでも、誰かの想いに触れられる。音楽と人の話だけで、心を動かすことができる――ラジオには、そんな“人間味”が残っていると感じていました。

そして思ったのです。

「社交ダンスの魅力を、声で届けてみよう」
「ダンサーの人生や想いを、話してもらおう」

こうして、「ダンスウェーブ」は誕生しました。資金は自分のポケットマネーから。最初の放送は、浦安市の小さなコミュニティFM局。放送時間は隔週水曜夜20時から。再放送は深夜0時。スタッフも僕ともう一人だけ。あとはラジオ制作業者を外注し、番組枠を買いました。なにもかも最低限。まさに手作りのスタートでした。

ですが、第1回目の放送に出演してくださったのは、なんと全日本チャンピオン・織田組。業界の第一線で活躍するトッププロが、僕の想いに賛同し、快く出演を引き受けてくださったのです。

放送後、番組宛に「感動しました」「社交ダンスをやってみたくなった」というメッセージが届き、“これは続ける意味がある”と確信しました。

誰かと繋がることで強くなる

正直に言うと、僕はこの活動を通じて、自分自身が救われている部分もありました。現場で感じていた無力感や不安、先細りの危機感。それらを誰かと共有し、「自分だけじゃなかった」と思えたとき、そしてラジオを聴いて「もう一度踊ろうと思った」と言ってくれる人に出会ったとき、僕はこの活動に命を吹き込まれたような気がしたのです。

社交ダンスには、言葉では言い表せないほどの力があります。それを“言葉”で届けることの矛盾に悩みながらも、だからこそ“言葉で魅せる”という挑戦にこだわり続けています。

「社交ダンスってちょっといいかも」と、誰かが思う“きっかけ”をつくりたい。

これが、ダンスウェーブの原点です。すべてのダンサーにスポットライトを――その想いは、今も変わっていません。現場の声を聴き続けるうちに、ますます、ダンスウェーブというラジオ番組の使命感を強く抱くようになりました。ラジオは一方通行ではありません。声を届けることで、必ずどこかで共鳴が生まれます。そして、その共鳴は新しいつながりを生み、全国に広がっていくのです。その役割を、僕たちはこれからも担っていきます。

番組応援スポンサーワッペン発売中!
応援する
番組応援スポンサーワッペン発売中!
応援する